去る5月28日に新横浜国際ホテルに於いて第23回大定例会が開催されました。たくさんの方にご参加頂きましてありがとうございました。
当日、お席の関係でスライドが見難かった方、もう一度学びを振り返ってみたい方、または残念ながら参加出来なかった方のために、講演のエッセンスを短くまとめてみました。会員の皆様と学びを共有出来れば幸いです。
基調講演①
「ティール組織に学ぶ、一人ひとりが動き出す経営」
嘉村賢州氏
陸上では歩き辛そうなペンギンも水中では信じられないスピードで泳ぎ回ることかできます。
―>人間も環境が変われば生き生きと活躍することができるのでは?
「ティール組織」の著者フレデリック・ラルー氏はマッキンゼーから独立し、社長向けコーチングをしていた際、社長たちがことごとく幸せそうではなく、従業員のサーベイを見ても多くが働き甲斐を感じていないことから「この経済社会は何かおかしい」と疑念を持ち始めました。
あらゆる文献をさらって読み、世界中の組織を探求してゆく中で、人類の次の発達段階に適合するようなパイオニア組織に出会うことができました。
それらの組織は営利企業も非営利組織もあり、事業分野も小売り、メーカー、エネルギー、食品、教育、医療と幅広く存在しています。
今講演ではまず<組織の歴史>について、次に<ティール組織の3つの特徴>について述べます。
最後に<ティール組織の実例>として2社を紹介します。
組織の歴史・5段階説
著者は、人類の歴史における組織の進化を段階ごとに色の波長で表現。最新の組織モデルに名付けられた「ティール(青緑色)組織」は、マネジメントの新形態として世界各地で現れつつあります。
信頼で結びついている。指示命令系統がなくて良い。
GREEN 家族
多様性の尊重。ヒエラルキーを残すものの従業員の呼称をメンバー、キャスト等へ。
ORANGE 機械
イノベーション・科学的マネジメント。社長と従業員のヒエラルキー。
AMBER 軍隊
長期的展望・上意下達。厳格な階級に基づくヒエラルキー。
RED オオカミの群れ
力による支配。短期的思考。
一見グリーン組織は理想的に見えるが、色々な価値観が出すぎて「船頭多くして船山に上る」現象や、「社長のちゃぶ台返し」で意見がひっくり返ることが起きがちです。
現在、世界中でレッド、アンバー、オレンジ、グリーンに属さない、一人ひとりが自由に意思決定でき、しかも信頼で結びついてパフォーマンスをあげている組織が出現しています。
それを「ティール組織」と名付けました。(注:それぞれの型が良い・悪いと言っている訳ではない)
ティール組織 3つの特徴
1 自主経営(Self Management)
上下関係による組織構造を手放す。=“誰もがリーダーになり得る”
実現が難しそうに聞こえるが、身近な実例があります。
例1) ニューロン:神経細胞が繋がって複雑なことをする際、誰か指示する中心的な役割があるわけではない。
例2) グローバル社会・経済:誰かが牛耳って何か指示命令して成り立っている訳ではない。
例3) 鳥の群れ:長距離を移動する際、一羽の鳥が先頭でずっと群れを引っ張っていくわけではなく、先頭はどんどん入れ替わる。
「自主経営」は、大組織であっても、階層やコンセンサスに頼ることなく、仲間との関係性の中で動くシステム。ただし、意思決定を担当者が行う際には必ず「助言プロセス」を実践しています。
「助言プロセス」とは、原則として組織内の誰がどんな決定を下してもいまわないが、決定を下す前にすべての関係者とその問題の専門家に助言を求めなければならないというものです。
(一つ一つの助言すべてを取り入れる義務はない)
一方、「コンセンサス」は魅力的に響くが参加者全員がめいめいに勝手なことを主張して集団的なエゴの嵐に陥ることが多いようです。また責任の所在が希薄になります。
「助言プロセス」では意思決定の責任が明確なため、最後まで懸命にやり抜き、助言者の「信頼」に応えようと奮闘します。
2全体性(Wholeness)
歴史を振り返ると組織とは人々が「仮面」をつける場所でした。
組織に受け入れられるよう自分らしさの大部分を家に置いてきて、職場は「魂の抜けた場所」であることが多かったのです。->深い自己にとっても、魂の密かな願いにも安住できる場所であるべきです。
人生におけるもっとも深い使命感:自分自身の中の、そして外部世界とのつながりを通じて全体性(ホールネス)を取り戻そう!
“自分自身の全て”を職場に持ち込むと大きな力を発揮できます。
開放的な、真の意味で「安心安全な」職場環境を整えるべきです。
3存在目的(Evolutionary Purpose)
世界中のティール組織では世界の変化、自分達の変化を感じとり、事業内容や組織の構造を変えながら生命体のように動いているものが多くありました。組織のメンバーは”将来組織がどうなりたいのか、どのような目的を達成したいのか”に耳を傾けなければなりません。
また、ラルー氏が世界中のティール組織を見て驚いたのは、ほとんどの組織が中・長期事業計画を持っていなかったことです。
ただし、勿論Ⅴision(こうなっていたいという将来の姿)ははっきりと持っています。
計画した目標数字や文言に囚われすぎて身動きが取れなくなり、世界の変化や自分たちの変化に対応していけなくなるようでは本末転倒だという意味です。
Teal組織の具体的な事例紹介
1ビュートゾルフ
ヘルスケア/オランダ/従業員7000人/非営利組織
ビュートゾルフはヨス・デ・ブロックと一組の看護師チームによって2006年に設立された非営利組織です。
現在はオランダ最大の地域看護師の組織として、高齢者や病人の在宅ケアサービスを提供しています。
2モーニング・スター
食品加工/米国/従業員400~2400人/営利企業
モーニング・スターはクリス・ルーファーによって1970年に設立されたトマト専門の生産・運送業者で、今日、米国におけるトマト加工及び運送分野で圧倒的なシェアを確保しています。
アメリカでピザやミートソース・スパゲティを食べたことがある人なら、同社の製品をどこかで口にしているはずです。
(それぞれの事例・取り組みについては本やネット記事を参照)
基調講演②
「クリエイティビティを引き出す組織」
原田 英治氏
祖父の代から続く印刷、出版会社の創業家に生まれ育ち、子供の頃から社長になるのが夢だった英治氏。
外資系コンサルティング会社勤務を経て家業に従事するも独立し、99年に妻と原田英治事務所を設立。2000年に英治出版に改組し代表取締役に就任。
独立に際し、大切にした家業の先代(父)の教えは以下の3点。
①後継者になるには起業するくらいの実力が必要
->独立心を植え付けられ、起業に大いに役に立った
②一番下の役職の人の意見を大切に
->階層的な組織は作りたくないと思った
③社員の幸せが先 経営者の幸せは後
->社員に投資してから回収する(販管費に夢をつめこもう!)
起業当時の英治出版の目標
「絶版にしない出版社を作ろう!」
起業した頃=日本にオンライン書店の出店が始まった頃。
当時のAmazonは新刊しか取り扱わず70-80%のタイトルの本はカタログには掲載されているのに購入できなかった
「世の中の本がこんなにも絶版になるなんておかしい」―>「絶版にしない出版社を作ろう!」―>「絶版しないということは現在のマーケットだけでなく未来にも読者がいるということ」
現在の英治出版
・既刊本が50%を超えている
・ロングセラー多数 94.7%の本が継続販売されている
・増版率50% (通常10~20%)
・社員9名(アルバイト含め18名)今まで累計109名が働いてきたが、今でも全員の誕生日にはカードの寄せ書きを贈っている。<-「仲間を大切にする」
・「仲間とつくる現実は自分の理想を超える!」夫婦2人で始めたころには想像もし得なかった著者の本を出版できている。(例 世界銀行副総裁など)
クリエイティビティを引き出す組織
父の教え②もあり、フラットでオープンな組織を目指した
*「採用」は与えられたテーマについてのエッセイのみ。
―名前、性別、学歴も伏せ(履歴書なし!)先入観なく選考。採用担当者全員でエッセイを読み、「一緒に働いてみたい」と思える文章を書いた人を採用する。―>新しいスタッフは初日から仲間意識を感じられる。
*「賞与」の支給額はスタッフ同士で話し合って決める。
―利益の20%を賞与として分配。分配率はスタッフ間で評価しあって決める。
*肩書は「プロデューサー」
―いわゆる編集者と営業担当者の肩書は同じ「プロデューサー」
―みんなで著者を「応援」=プロデュースする
―一つの案件を一人のプロデューサーが担当し、本の企画から販売促進までを一貫して行う。
*「企画会議」では没企画なし!
―毎週行われる企画会議で皆が納得するまで企画を磨いていき、最終的に全員の(含営業担当、総務、経理、アルバイト)拍手がGOサイン!=「みんなが決裁する」(本を作って売り続けるには全員の関与が必要)
*スローガンではなく「問い」を持つ。「本当にやりたいか?」と問う組織文化でマネジメントする。
経営者として大切にしていること
*「成長への投資」を惜しまない
―毎年全社員に海外出張を推奨。(あげたい給料からあらかじめ30万円引いておけば実現可能)
―社員の力を引き出すための投資をしてから回収するのが基本―>「販管費に夢を詰め込む!」
*「共創」:仲間にラボを開放したり、社屋内に会員制のベースを設けることで、社外の仲間ともつながり、助け合う。->弱いつながりの強さを実感。
*「6次の隔たり」(全ての人や物事は6ステップ以内で繋がっていて、友達の友達…を介して世界中の人々と間接的な知り合いになることができるという仮説)という仮説があるが、目の前の友人、知人(1次の人)を大切にして、その人の繋がり(2次、3次)を想像してみる。->まずは1次の人と深くつながる事が肝要。
*親子島留学を通して、「等価交換できない取引」や「同時清算されなくてもかまわない」ことを学び、経営に活かせると感じた。
今後について
「本」「出版」に囚われない「パブリッシャー」としてのあらたな挑戦
―「出版=版を出す」ではなく、「パブリック(公)にする」こと。人や物語や知識・情報をパブリックにするのがパブリッシャーの役割。
「パブリック」は、人々が良心(公共心)のもとに創り出す空間。「パブリック」は物理的な空間に限定されない。
「パブリック」は過去から存在し、未来にも永続的に存在する。->良いものをもっと広く、もっと多く、もっと長く。
本来あるべき出版社=パブリッシャーとしての理想を今後も追求していく。